遠い昔のことだが,今でも鮮明に残っていることがある。それは,日常生活の何気ない風景なのであるが,なぜだか心に刻まれた記憶である。父方の本家は,天城の入り口にあり,周りの家より少し小高い所に立っていた。真偽の程は分からないが,薩摩から派遣されていた役人の下で働き,砂糖を集める手伝いをしていたそうだ。そのためかどうかは分からないが,家の敷地内には小さな鐘があった(私が生まれ以来,この鐘の音を聞くことはほとんどなかった)。家は,木造で建てられており,天井は瓦でふかれていた。役人の部下と言う割には,かなり質素な作りであった。また,離れた所に,比較的大きな倉庫と,豚小屋があった。そのせいで,近くに行くと,その匂いがした。ある日,私が庭で遊んでいると,道の方からおじさん達の声が聞こえた。おじさん達は,耕運機に乗っていて,そこに荷物が乗せられたるように荷台が繋がっていた。「畑に行くので,乗らないか。」そんな趣旨の言葉をかけられたと思う。私は,これは面白そうだと思い,小高い斜面を駆け下りて,その耕運機に乗った記憶がある。もちろん,耕運機なので,スピードはすこぶる遅かったが,それが妙に心地よかった気がした。そのおじさん達も,元気に暮らしている人もいるが,病気で亡くなった人もいる。今でも,車でその道を通ると,あの時の記憶が蘇ってきて,感慨深い気持ちになる。
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