2020年6月7日日曜日

写実主義

10年程前,テレビのチャンネルをポチポチ変えていると,日曜美術館という番組が放映されていた。有名な絵画や彫刻,画家などを紹介している番組である。画面に変化が少なく,紹介する内容が淡々と流れていくので,長く見続けるには難しい内容だった。しかし,そんな内容であるにもかかわらず,一瞬にして目を捉われてしまった作家が紹介されていた。それは,野田弘志という人で,北海道に在住の作家だった。では,どんな作品を描いているのかというと,現代絵画に相反する写実主義で描いていた。写真が登場して,絵画において写実主義は敬遠されがちになった。絵で描いた物よりも,写真がより精巧だったからである。それで,ピカソ,ダリに代表されるような象徴的な絵画が主流になるようになった。しかし,ある物を精巧に描くという写実的な表現は,現代にも脈々と残っていたが,その番組の放映された当時は一部の人達には知られていたものの,一般的にはあまり知られていなかった。実際,私もその番組を見るまでは,写実に関しては知っていたが,作家や作品については全く知識がなかった。番組は,途中から見たのであるが,始めに見たのは動物の骨や置物を書いた作品だったと思う(10年前のことなので,なんともかんとも・・・)。その精巧さに心を捕らわれてしまった。それは,まさに写真と言っても過言でない程,細かな部分まで丁寧に描かれていた。また,人物を描いた作品もあった。それもまた,精巧に描かれていた。人の表情,肌の質感,全体的なバランス,全てにおいて完璧だった。それまでチャンネルをポチポチ変えていた指が止まり,番組を最後まで見続けてしまった。それぐらい,心を囚われてしまった。写実というと,写真と同義語のように捉えがちであるが,実際見てみると少し違っている。写真は,機械で撮しているので少し冷たい感じがするが,写実は人の手で描かれているので,写真的な要素の中に,人の心を感じられるのである。また,その絵画を人が描いたということで,人の持つ才能の素晴らしさを感じる所も,心を囚われる要因の一つであると思う。この野田弘志さんを筆頭に,写実によって作品を描いている作家は増えているように思う。これからも,いろいろな作家の作品に触れ,その素晴らしさを堪能していきたい。

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